体育会系商社マンの米国株投資

経済的自立を達成し、会社に帰属せずとも自分らしい自由な人生を目指しています。

2010年以降のS&P500指数のPERレンジについての考察

投資ブログ「月16万の都会暮らし資産運用記」を運営されている「パーサ」さんこと「パーサモウニアス」さんが、先日のブログ記事を読んでくださり、以下コメントを頂戴しました。

=下図のS&P500の予想PERのチャートを見て=

“PERのチャートは、レンジがどんどん上がっているように見受けられますね。リーマンショック前後の10~15、2014年~コロナショックまでの15~18、コロナショック後はボラが大きいですが概ね18~22といった具合です。過去の平均にとらわれすぎずに変化に柔軟に対応することも大事ですね。”

確かに。さすがベテランの投資家さん。鋭い分析です。

赤枠で囲ったように、おおよそ6年周期で、PERのレンジが一段ずつ切りあがっています。今日はこの言葉を深掘りしてみたいと思います。

PERのデパートに例えてみる

この「PERのレンジが切りあがる」というのはどういうイメージでしょうか?やや無理があるのですが、今日はデパートに例えて説明してみます。

このデパートで売られている商品は「S&P500のみ」ですが、その値段は日々変動し、高くなったり安くなったりします。買い物客=市場参加者です。フロア案内図を見てみましょう。

PERのデパートのイメージ

1階(PER10-15): 『割安フロア。すいており、ゆったりとセール品を吟味できます。』
2階(PER15-18): 『適正フロア。混雑度は普通。適正価格で安心してお買い物を楽しめます。』
3階(PER18-22): 『やや割高フロア。多数のお客様で混雑しております。』

どの階も売られている商品は同じ「S&P500」で、その本質的な価値は変わらないのですが、1階の割安フロアでは、不人気で買い手は少なく、セール品扱い。上の階にいくほど人気商品となり、お高くても買う人が増えて過熱感が出てきます。

このデパートの注意点

今、我々は3階にいますが、一つ注意点があります。このデパートは各フロアを自由に行ったり来たり出来ないのです。過熱感が各フロアの上限を超えると、『ある日突然』、客は全員一つ上のフロアに強制的に移動します。その後は1階に降りたくても、好きな時には降りられません。

1階で買えた客は利を得ている

今から振り返れば、「1階→2階→3階と上がるタイミング」が、おおよそ6年周期だったという事です。1階でセール品を買って、3階まで買い持ちしてきた客は、大きなリターンを得ています。2階で適正価格で買えた客も、今はホクホクしているはずです。なぜなら、商品は同じS&P500でも、1階や2階で買った時よりも、その「値付け」が高くなっているからです。

1階は不人気フロアなので、「更に下がるかも」という不安の中で買うのは簡単ではありません。そこで果敢に買い向かい、かつ時間を味方にして、売らずに買い持ちできた客が、その対価としてリターンを得ています。

どうでしょうか?デパートのたとえで、なんとなく上図のイメージが掴めたら嬉しいです。

参考)もう少し丁寧に用語解説

さて、投資界隈では「バリュエーション」や「PER」といった横文字が頻繁に出てきます。私も何の注釈もなく普通に使ってしまうので、ここで2つだけ、私なりにかみ砕いた用語解説をさせて下さい。以下説明を踏まえて、冒頭のパーサさんのコメントをもう一度読むと、解像度が上がっているはずです。

①バリュエーションとは:

市場が企業の価値をどのように評価し、その将来の成長や利益にどれだけ期待しているかを示すもの。代表的な指標にPERがある。その指標を通じて、評価や期待感を数値化することで、株価が割高か割安かを分析できる。

たとえば、あるお店で売っているリンゴでも、100円のものと200円のものがありますよね。この違いは、見た目や甘さ、ブランドに対する「期待」が反映されています。

同じリンゴ=1株あたりの利益は同じ会社の株でも、PERが10倍のときは「お得なリンゴ」、PERが20倍のときは「高級リンゴ」というイメージです。PERが高いほど「この会社は将来大きく成長するかも!」と期待されている、つまり市場の期待が大きいことを意味します。この状態は「バリュエーションが高い」とも表現され、経済新聞やエコノミストの記事などでよく見かけます。

②PER(株価収益率)とは:

PER(株価収益率)とは、企業の株価がその利益に対して高いか安いかを示す指標です。計算方法は、「株価 ÷ 1株あたりの利益(EPS)」です。これを使って、株が割安か割高かを判断します。

例えば、S&P500指数を1つの企業と考え、株価が6,000ドル、1株あたりの利益(EPS)が300ドルだとします。この場合、PERは「6,000 ÷ 300 = 20倍」となります。ここでの「20倍」という意味は、投資家がこの会社に投資して、その投資額を利益で回収するのに20年かかるということです。投資家はできるだけ早く資金を回収したいため、PERが低いほど株は「割安(お買い得)」、PERが高いほど「割高(プレミアム)」とされます。

例えば、ある会社がPER5倍だった場合、その株は利益を短期間で回収できるので、お得に感じるかもしれません。しかし、その裏には市場の期待値が低い=将来の収益見通しが悪い等の懸念材料が反映されている可能性があります。

逆に、PERが50倍の会社は利益回収に50年かかるので、割高に見えることが多いです。しかし、例えばエヌビディアのように将来の利益が大きく伸びると期待されている場合、投資家は割高でも買いにいく事もあります。
※なお、業種や企業の成長性によって、適正なPERの基準は異なるのでご注意を。

このように、PERは株の「値ごろ感」、即ち上述の「バリュエーション」を測るために使われる代表的な指標です。米国株を深く理解したい方は、ぜひ自分のものにしましょう。

このデパートに4階はあるのか。

さて話を戻して、気になるのは;
・このデパートの3階フロアはいつまで続くのか。
・4階はあるのか。
・はたまた次は2階へ下りるのか。
ですよね。

有識者のコンセンサス

あくまで私の知る限りですが、2025年は、PER18-22倍、S&P500は5,500-6,500のレンジで推移するというのが有識者のコンセンサスのようです。先日の投資勉強会でお会いした、米国株投資の第一人者のたぱぞうさんもそのような見通し感をお持ちでした。

金融機関は概ね楽観的で、ゴールドマンとJPモルガンの2025年末の目標値は6,500。また、このチャートはエコノミストのエドワード・ヤルデニ氏のサイトからの引用ですが、同様にPER18-22倍で2026年末まで補助線が引かれています。昨年11月時点の情報ですが、強気派のヤルデニ氏は2025年末には7,000、2029年末までに10,000の大台に到達すると予測しています。

勿論、誰にも予測は出来ないのですが、市場は「(4階に行くのは)焦らず、もう少し3階を楽しみましょう。でも3階は結構ボラ高めだから気を付けて」という空気感のようです。

参考)考察に便利な早見表

EPS x PER = S&P500指数の組み合わせに関して、ソニーフィナンシャルグループのレポートに、考察に使える早見表を見つけたので、参考までに張り付けておきます。

EPSとは一株あたり利益。「稼ぐ力」のイメージです。

PERの水準が変わらずとも、EPSが伸びれば指数は伸びる。意外とシンプルな掛け算の世界ですね。

過去にヒントを探るべく、もう少し長期で見てみましょう。

さて、直近20年弱のサイクルを見てきましたが、もう少し長期でも見て、過去にヒントを探ってみます。

上図は過去40年のS&P500のチャート。灰色がリセッション期間です。40年間の平均値は15.8倍とのこと。

PERが今よりも一段高い水準となった期間が一度だけありますね。1999年~2000年頃に25倍(※)をつけています。これはいわゆるITバブル(もしくはドットコムバブル)の時ですね。当時は1995年からの約5年間で、PERは12倍から25倍まで一気に駆け上がっています。
※ITバブル時のPERはこんな生易しい数字でなかったはずと思い、調べてみましたが、47倍という数字がありました。この違いは計算に使用するEPSの違いによるものと思われますが、正確には分かりませんでした。

当時のITバブルと今では状況が異なる

現在のハイテク・AIブームを当時のITバブルと重ねる論調も見かけます。しかし、私はこのITバブルに、今後のヒントを求めるのは避けたいと思います(教訓にはすべきですが)。現在の環境と違いすぎるからです。

当時のITバブルではインターネット関連企業に対する過度な期待が高まり、多くの投資家がこれらの企業の株を買い漁りました。しかし、その多くは実際の収益やビジネスモデルが確立されていないかった薄っぺらな企業群でした。

今とは買われている企業群の質が違います。特に市場を牽引するM7は圧倒的に地力(稼ぐ力)があります。市場の期待度は非常に高いものの、それに応える質を持ち合わせているので、即バブルという状況は考えにくいです。

→私の結論:過去に現在のPER22倍を超える水準はあったものの、ITバブル時の話であり、あまり参考にならない。あまり好きな表現ではありませんが「現在は新たなフェーズに入っている」という事なのでしょう。

参考)ITバブル時の投資環境

ITバブル時とは、企業の質だけでなく、金利やインフレ率などの投資環境もかなり違いました。

上図はPERと金利のチャートです。赤線はこれまで見てきたのと同じPER。今度は、青線の長期金利(10年国債利回り)に注目してみて下さい。2000年前後の長期金利はピンク枠で囲った6%前後です。普通に長期国債を持っていれば年利6%のリターンを得られる訳ですから、株への期待値はより高くなり、それが株価に反映されます。その期待値に実体(インターネット関連企業の利益)が耐えきれなくなった時、バブルが弾けます。

なお、現在の長期金利は4.5%前後(ピンクの横線)です。これも過去20年では最も高い水準なので注意しておく必要があります。

金利ひとつ取ってみても投資環境が異なりますね。PERだけを見て過去と比較すると、見誤るので注意です。

で、私はどうするか?

長くなりましたので簡潔に。以上の考察を踏まえて、私の投資方針に変化はあるか?

→結論は変化なしです。

・S&P500のPERは歴史的にみて割高水準なものの、買われているのは実際に稼ぐ力を持つ企業群であり、高すぎるとは思わない。

・S&P500指数にも昨今のAIブームが織り込まれており、パランティア等のAI銘柄では若干バブルの気があるが、AIというテーマそのものは将来より大きな価値・利益を生み出す可能性が高く、実体の伴わないバブルとは思わない。

・また直近のDeepSeekショックのように、調整が入るのは行き過ぎをけん制するので、むしろ好ましいと思っている。

・PERの過去40年平均は16倍だが、そこまで回帰するのを待っていたら一生その日はこない可能性もあり、割高であることを認識した上で、基本的には余力資金は即時米国株に投入するスタンスは変わらない。

→現時点では方針に変わりなしです。

おわりに

以上、ベテラン投資家のパーサさんの鋭い分析を考察してみました。皆さまの米国株を考えるヒントになれば幸いです。

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